新型インフルエンザ等対策特別措置法の「緊急事態」と改正憲法の「緊急事態」は?

新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律案もいよいよ今日成立ですね。
報道では、あたかも「改正案で緊急事態宣言を追加する改正」のような雰囲気の報道に感じるところですが、正しくは「緊急事態宣言がもともとあった法律に新型コロナウイルスを対象疾病として追加する改正」でした。
ここは行政法を職業とする行政書士としては、押さえておきたいところですね。

ところで、ここまでの危機管理は、内閣法第15条により、内閣危機管理監のもと、内閣官房に設けられた個別の対策室が対応していたと思います。
危機管理監下の緊急事態には当然、テロや武力攻撃も想定されています。
この緊急事態に備えた憲法改正を目指しているのが現内閣ですね。
先に与党は、「感染拡大は憲法改正の一つの実験台、緊急事態の例だ」と述べたのに対し、野党は「コロナウイルスを利用して緊急事態は必要だという空気を醸成している」と批判しています。

憲法改正に関する議論の状況について(条文イメージ・たたき台素案)を一読しますと、新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態と、改正憲法の緊急事態は全くの別物のはずです。
ただ、今後、社会が落ち着きを取り戻した時、言葉だけでとらえられて、新型コロナ対策を改憲論議に結び付け、「緊急事態に備えて憲法改正しよう」というものに変わってしまのか、注視していく点ですね。
「たたき台素案」の4項目とは、9条改正、緊急事態条項、参議院の合区解消、教育制度から構成されますが、緊急事態条項の特徴を見てみましょう。

第73条の2第1項では、
緊急事態で国会による法律の制定を待っていられないと認められる特別の事情がある場合には、内閣が法律抜きで政令を定めることができます。
では、誰が「国会による法律の制定を待てない」と判断するか?
国会が法律を決めていられない事態となると、内閣しかありえません。
内閣が自分で判断するため、何の歯止めもなく自由自在に「国会による法律の制定を待っていられない」と自分で決めて、勝手に政令を制定し、法律と同じような効力を与えることができることになります。

73条の2の第2項
国会の事後承認について、細かい点は「法律で定めるところにより」と書いてあるだけで条文の上では、国会の承認を得られなかったとしても、緊急事態の政令の効力を永久に継続させることも可能だということになってしまいます。

第64条の2
緊急事態では国会議員の任期を無限に延長できます。

こうした課題を抱える改正憲法の緊急事態条項ですが、では現行法で第73条の2第1項「大地震その他の異常かつ大規模な災害」に備えることはできないのか?
たとえば、映画「シン・ゴジラ」で議論された、「災害対策基本法」はいかがでしょうか?

災害対策基本法は、災害に対する国の基本的事項を定めた法律です。
(災害対策基本法1条)
国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とます。
具体的な内容としては、
1.防災に関する責務の明確化
2.総合的防災行政の整備
3.計画的防災行政の整備
4.災害対策の推進
5.激甚災害に対処する財政援助等
6.災害緊急事態に対する措置
映画「シン・ゴジラ」劇中で問題となったのは、 「6.災害緊急事態に対する措置」で、災害対策基本法第105条に基づく「災害緊急事態の布告」を行うかどうか、白熱しました。

災害対策基本法第105条(災害緊急事態の布告)
1 非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進し、国の経済の秩序を維持し、その他当該災害に係る重要な課題に対応するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、閣議にかけて、関係地域の全部又は一部について災害緊急事態の布告を発することができる。
2 前項の布告には、その区域、布告を必要とする事態の概要及び布告の効力を発する日時を明示しなければならない。

この緊急事態の布告を行ったあとに、どういった措置をとることができるかというと、同法109条が規定しています。
ゴジラにより日本経済は壊滅状態にあると思われますし、物流が復帰するのに相当の時間も要することでしょう。
緊急事態では、生活必需物資の分配や物流制限、物資の価格の統制を行うこともできますし、債務の支払延期・延長なども発令することができます。
巨大な災害時は国家が介入し、必要物資の管理を行うことができるわけです。

もし、新型コロナウイルスによる災禍を強引にでも「災害」と解釈してしまえば、初の災害対策基本法第105条に基づく災害緊急事態の布告が可能だったかもしれませんね。
生物学系(伝染性疾患、疫病)を原因とするものも、自然災害と考えていたはずなのですが…。

2020年03月13日